前提:睡眠の質は肌にも関わる
まず、なぜ美容の文脈で睡眠が話題になるのかを押さえておきます。
睡眠の質が低いと、肌のバリア機能や修復のスピードに影響が出やすいことが報告されています。夜眠っている間は、肌が自分を修復する大切な時間だからです。 (→ 睡眠不足で肌が荒れるのはなぜ?)
だから「よく眠れるかどうか」は、肌にとっても無関係ではありません。
分かっていること:鍼は睡眠指標を改善しうる
鍼と睡眠の関係は、主に不眠症の人を対象に調べられています。
複数の研究をまとめて分析した報告では、効果のない「見せかけの鍼(偽鍼)」と比べても、本物の鍼のほうが睡眠の質を表すスコアや、総睡眠時間・睡眠効率で上回ったとされています。
不眠症を対象にした研究のまとめでは、鍼は見せかけの鍼と比べて睡眠の質・総睡眠時間・睡眠効率・中途覚醒の改善で優れていたと報告されています(Zhang J, et al. Complement Ther Clin Pract. 2020)。
仕組みとしては、鍼が自律神経を副交感側(リラックス側)に傾けることが関わっていると考えられています。この点は別記事で詳しく解説しています。 (→ 美容鍼で"リラックスする"と言われるのはなぜ?)
ここが正直な境界線:二重の但し書き
ただし、体験談を「効果」として受け取る前に、2つの大事な注意点があります。
1つめ:それは「不眠症の人」への研究です。 上の研究は、不眠に悩む患者を対象にしたものです。もともとよく眠れている人や、美容目的で来院した人に、同じ睡眠改善が起きるとは限りません。
2つめ:それは「美容鍼」の研究ではありません。 研究で使われたのは体のツボへの治療鍼です。顔への美容鍼で睡眠がどう変わるかを直接調べた研究は、ほとんど見当たりません。
ですから、施術後の眠気や安眠は、
- 「鍼一般の知見から見て、あり得ないことではない」
という程度に留めておくのが正確です。「美容鍼は睡眠に効く」と言い切るのは、今の根拠では行き過ぎです。
研究にも限界がある
さらに付け加えると、鍼と不眠の研究どうしでも結果にばらつきがあります。見せかけの鍼と差が出なかった研究もあり、「鍼で必ず眠りが良くなる」とまでは言えません。
「施術後によく眠れた」という体感には、鍼そのものの作用だけでなく、横になってリラックスした時間や、施術への期待も混ざっている可能性があります。
まとめ
- 鍼が睡眠の質を改善しうることは、不眠症を対象にした研究で報告されている
- ただしそれは「不眠症の人」への「治療鍼」の話で、美容鍼で直接確かめられてはいない
- 施術後の眠気・安眠は「あり得ないことではない」程度に捉えるのが正確
- 研究間でも結果にばらつきがあり、確実な効果ではない
- 睡眠改善を主目的に美容鍼を選ぶのはおすすめしない。あくまで副次的な"余地"として
睡眠と肌の関係そのものについては、こちらで解説しています。 (→ 睡眠不足で肌が荒れるのはなぜ?)
参考文献
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Zhang J, He Y, Huang X, Liu Y, Yu H. The effects of acupuncture versus sham/placebo acupuncture for insomnia: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Complement Ther Clin Pract. 2020;41:101253. doi:10.1016/j.ctcp.2020.101253. → 偽鍼と比較し、鍼が睡眠の質・総睡眠時間・睡眠効率・中途覚醒の改善で優れていたと報告。
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Zhao FY, Fu QQ, Kennedy GA, et al. Can acupuncture improve objective sleep indices in patients with primary insomnia? A systematic review and meta-analysis. Sleep Med. 2021;80:244-259. doi:10.1016/j.sleep.2021.01.053. → 原発性不眠症を対象に、鍼が客観的な睡眠指標を改善しうるかを検討したまとめ。








